2024年7月24日水曜日

ジェイン・オースティン『ノーサンガー僧院』 Northanger abbey 1817

小説の完成は1803年であるが、出版は没後の1817年となった。前半のあらすじは次の様である。

主人公キャサリン・モーランドは幼い頃は可愛くなかったが、成長して美しくなった。と言ってもまだ二十歳前である。キャサリンは田舎の牧師の娘であり、近所の夫妻と温泉保養地として有名なバースに行く。ここでイザベラ・ソープと知り合い仲良くなるが、その兄ジョンにしつこく付きまとわれ閉口する。この地にやって来たヘンリー・ティルニーに憧れる。父親の将軍も知る。ティルニー家の邸に来ないかと誘われ狂喜する。

その邸が題名になっているNorthanger abbeyである。abbeyとは昔僧院などで、今は個人の邸宅等に使われている古い館を指す。例えばロンドンにあるウェストミンスター寺院の英語名はWestminster abbeyである。キャサリンが喜んだのは、ゴシック小説の愛好家で、小説で読んで憧れている古い城館に、ティルニー家の邸がそのままだと思い込んでいるからである。本作は18世紀の末から書き始められたが、当時はゴシック小説が大流行していたのである。特に1794年に出されたアン・ラドクリフの『ユドルフォ城の怪奇』は大ベストセラーで、本作にもこの小説についてキャサリンとヘンリーが語り合う場面がある。長い馬車の旅を経、ノーサンガーアビーに着くのだが。

実は本作は『ユドルフォ城の怪奇』の戯画化というかパロディと言ってよい記述が多く出てきて、『ユドルフォ城の怪奇』の既読者は笑ってしまう。出来るなら本作を読む前に『ユドルフォ城の怪奇』を読むといい。余計面白くなる。今では邦訳が出ている。もちろん主要な部分はオースティン流の恋愛小説であり、初期の作品ながらさすがオースティン作だと思わせる。(ちくま文庫、2009)

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