本書は実業家、渋沢栄一(天保11年(1840)生まれ、昭和6年死去、92歳)の講演を筆記したものである。仕事と生き方についての講演記録で、大正5年に出版された。
道徳経済合一説という渋沢の哲学を述べたものである。必要に応じて論語を引っ張って来て、渋沢流の解釈をする。何しろ渋沢は天保の老人であり、当時の教養書と言ったら中国の古典である。だから論語を持ってくるのは何ら不思議でない。平生の心がけを説いており、功成り名遂げた人なら大抵の人が大同小異の説教ができるだろう。しかしながら意見というのものは内容だけが重要でない。どういう言い方をしたか、誰が言ったか、が内容と同程度、あるいはそれ以上に大切になる。批判するにしても相手を怒らせて終わる言い方もあれば、深く反省させる言い方もある。20代の若者が言っても誰も耳を貸さないが、中高年の重役が同じ事を言えば謹聴して聞く。本書は渋沢栄一の著であるから読む価値がある。
目新しい事は言っていないが、渋沢がどういう人間だったかが分かる。例えば上司は優しいばかりの者が良いか、意地悪ばかりの者が良いか、の選択で後者を取る。まるで今の言葉で言えばパワハラの勧めのようだ。なぜなら意地悪な上司の方がそれに対してなにくそと思って頑張るからだという。これは渋沢が他からの圧力に負けない人間だったからだろう。
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