昭和24年に起きた、初代国鉄総裁下山定則の不審死は、自殺か他殺か自体不明で、多くの論議をよんできた。同年に起こった国鉄関連の事件では、三鷹事件も松川事件、共に犯人が逮捕され真犯人かどうかが論争になった。しかるに下山事件では自殺か他殺かも不明、容疑者がいない。70年以上閲しているのに未だ新しい書籍さえ出されているのである。もっとも現在では他殺説が圧倒的多数で、誰が犯人か犯行の手口はどんなものかが論じられている。もしも今この事件について何か調べようとしたら、邪馬台国のありかを探るのと大差ない。つまり文献によるしかないのである。
本書は事件発生後14年目の出版で、著者も読者もこの事件当時を知っている世代である。事件の当事者に聞き込みも出来た時代である。これが本書の特徴の一つである。著者は二人とも医学博士で、宮城音弥はかつて岩波新書などに心理学関係の本を出していた。松本清張の他殺説は既に出されており(本書より3年前)、本のカバーに松本清張氏に挑戦する、とある。学者として推理科学の立場をとるとあり、創作家の本とは違うと言いたいようである。
本書は「発端」の章で事件の概要を書き、続く「自殺?」の章では自殺説の立場から論じる。ここを読むと自殺説に傾きそうになる。その後の「他殺?」では他殺説を裏付ける論をはり、他殺説が説得的になる。続く「犯人は?」では他殺だった場合、犯人は誰かを論じ、松本清張による米軍説、また国鉄副総裁だった加賀山之雄による共産組織説の検討である。共に批判的に論じる。以上、全体として他殺関係のページが多い。
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