『ソーの舞踏会』は、高い地位を得る男との結婚を逃した貴族の令嬢の物語。ソーはパリ近郊にあり、ここでの野外舞踏会が有名だったそうだ。19世紀初頭のフランスの貴族社会の話だから、現在の感覚で物を言ってもしょうがないが、有利な者と結婚できたかどうかが、幸福の基準ではない。お互い結婚してよかったと、長年暮らしてそう感じられるかどうかだと思ってしまった。
『夫婦財産契約』は、一言でいえば世間知らずの青年が結婚詐欺に引っかかる話である。本作は正直言ってあまり面白くなかった。それは途中まで読むと結末が分かってしまうからである。大筋や結末だけでなく、細部を味わうのが小説の読み方かもしれない。公証人同士のやりあい、また最後の方で婚約者の娘が書く手紙が優れているなどとあるが、どうもバルザックの小説の中であまり評価できない。夫婦財産契約とは当時のフランスの法律で、そういう昔の決まりに関心があれば読める話かもしれない。小説の初めの方で友人が主人公に結婚の下らなさ加減を諭しているが、ここでの主人公の悲劇は本人が頓馬過ぎて、相手方がずるかったからである。結婚一般の問題ではない。
『禁治産』は夫が愛人等に浪費しているので、禁治産宣告をさせ、財産管理を狙う貴族夫人が判事に頼みこむ話である。19世紀のフランスは貴族の力が強く、その貴族夫人が有力者に働きかけ司法を動かそうとするさまは『浮かれ女盛衰記』でも描かれている。19世紀は何度も革命騒ぎがあったが、普仏戦争までフランスは大体王政で、ブルジョワが力をつけてきたものの、貴族支配の時代だったのだろう。
本書は貴族の婦人らの困った実態とでも言えそうな話が集めてある。
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