2021年10月18日月曜日

サミュエル・フラー自伝 A Third Face 2002

米の映画監督サミュエル・フラー(19121997)の自叙伝である。

幼いうちに父親を亡くし、フラーは少年時代から働きに出る。ニューヨークの新聞街での使い走りから始まる。有名な業界人に認められ、その地位を上げていく。アメリカ中を旅行し、その実際の姿を見る。おりしも恐慌時で多くの下層民の苦労をつぶさに観察する。第二次世界大戦が始まる。志願する。ジャーナリストだったので、報道関係の安全なポストを提供されるが、フラーは断り、一兵卒として歩兵になる。欧州に派遣される。北アフリカ、イタリア、ノルマンディー上陸、ドイツへの進攻の体験が書いてある。もとよりジャーナリスト、脚本家、作家で、小説をものにしていた。戦争中に自分の小説が出版され、映画化されるという連絡を受けとる。戦後は映画の監督を始める。映画制作の苦労、案が実現しなかったのはなぜか、といった映画制作の現場の苦労、裏話が面白い。

非常に大部で756ページ以上あり、二段組の厚い本である。読むのに時間がかかるが、中身はめっぽう面白い。正直、フラーの映画よりこちらの方が面白いと言えるかもしれない。もちろん晩年の回想だから、誇張は当然として記憶違いも結構あるのはしょうがない。どの自伝にもつきものである。間違いのうち幾つかは訳者の注に記してある。注にはないが『東京暗黒街・竹の家』(1955)の撮影で使った浅草松屋を20階くらいの建物と書いてある。

ともかくアメリカの20世紀史を映画人の眼で見て綴った書であり、戦前の部分など全く映画を観ない人、フラーの名さえ知らなくても面白いから勧めたい。

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