2021年10月30日土曜日

武士の娘 A daughter of Samurai 1925

越後長岡の家老の娘として明示初年に生まれた杉本鉞子の自伝である。生まれた当時から明治維新の混乱、変革に巻き込まれる。結婚の相手が渡米していたので、十代でアメリカに渡る。その地で米婦人その他に世話になった。娘が誕生して米人の中で育てる。夫の事業が失敗して帰国する。(この辺り事情ははっきり書いていない)後に娘たちを連れて再び渡米する。

歴史にあるような支配層の変更といった視点からの記述でなく、一国民が経験した記録として貴重である。今では失われてしまった当時の風習等が書いてあり資料的な価値がある。

当時の日本と西洋の断絶は現在では想像不可能なほど甚だしかったはずである。それを後年の回顧とは言え、適応していった著者の苦労はそれほど語られていないため、かえって察せざるを得ない。

本書を読んで特に感ずるところは、著者を初めその母親、祖母の婦徳とも言うべきものの高さである。武家であるから当時の一般ではないだろう。それに比べて兄や夫ら男は風潮にのって古いものを馬鹿にするあたり軽薄にさえ映る。本書が出版された当時どう受け止められたか知らないが、グローバル化と言われる現代こそ読むべき価値があると思った。外国に対し迎合するだけの態度では評価を下げるばかりである。

大岩美代訳、筑摩書房世界ノンフィクション全集第8巻、昭和35

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