2021年10月30日土曜日

宇野功芳、中野雄、福島章恭『クラシックCDの名盤(新版)』文春新書 2008

音楽評論家の宇野功芳、音楽プロデューサーの中野雄、音楽評論家の福島章恭の三人がクラシクの名曲についてそれぞれ推薦版を書くという型式の書。このうち宇野、中野が昭和一桁生まれで、福島のみ30年くらい若い戦後世代である。3人の評があって異なる視点からの評が聞けるとの狙いらしい。実際は仲間うちであり馴れ合いとまで言わないが、それほど期待できない。宇野先生といい、福島君などと呼ぶ間柄である。

まず見て驚くのは、古い録音のオンパレードである。できる限り古い録音を選ぶようにというお達しがあったのか。LP時代へ戻ったかのような感じである。LP時代の図書の復刻版と言っても通じるかもしれない。つまりは新しい録音にはろくな演奏はないと言いたいらしい。冒頭でCDの売り上げが激減していると書いているがその論証として出したのであろう。宇野は次のように書くべきだった。

「優れた演奏は昔の録音に限る。CDの売り上げが激減しているのは当然と言えよう」

著者のうち福島は知らなかった。モントゥーとトスカニーニが好きだと明言しており、それらの録音を多く挙げている。割り引いてみる必要がある。

宇野の推薦盤は化石化している。鄭京和のような贔屓の演奏家を挙げていて過去に引き戻された。宇野は昔からブラームス嫌いを公言しており、それなのにブラームスの曲の名盤なるものを書いている。嫌いな作曲家の名演を挙げても、参考にする気が起きない。バッハなどでも名盤を挙げていないくらいだから、なぜ嫌いなものを書いているのか理解できない。

一体本書はどのような読者を対象としているのか。自分のようにある程度聴いてきた者は知らない名演を知りたいと思う。初心者向きなのか。そうならクラシックの演奏に未来はないと思わせたいのか。昔の名演をいかにうまく復刻するだけが今後の課題なのか。これがクラシック音楽の現実である、昔の演奏しか聴く価値がない、直視せよとの勇気ある提言か。ともかく昔の名盤を知りたい人にはうってつけである。

選曲も気になる。どういう基準で選んだのか。交響曲がむやみに多いが、良く聴かれる分野だからか。ベートーヴェンの交響曲など全曲一曲ずつ取り上げた上、交響曲全集まである。それに比べピアノ・ソナタは、ピアノ・ソナタ全集だけである。交響曲もまとめて書けば良いように思った。好みの問題だから言ってもしょうがないだろうが、管弦楽曲が鑑賞の中心となっているクラシック・ファンに独奏曲、室内楽曲、オペラなどでも聴けば名曲と思わせる有名曲が多い。そういった曲をもっと取り上げればいいのにと思った。

本書の新版は、以前出した同名の書が売れたので二匹目の何とかで出したらしい。正直、初版の方がここで指摘した点などで、より特徴が出ている。そういう意味で面白い。大体、本というのは初版が「迫力」があって読み応えがあるのが一般的である。教科書のようなものでさえそうである。改定した版は妥協的になり、面白くなくなるのが普通である。

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