ヒッチコックの映画で有名な『レベッカ』『鳥』の原作者ダフネ・デュ・モーリアによる長篇小説。
語り手のイギリス人がフランスで、自分と全く瓜二つの人物に会い、その人間と入れ替わるという話である。似た人物が入れ替わる話なら、例えば『王子と乞食』や『二都物語』などすぐに思い浮かぶ。他にもあるだろう。『王子と乞食』は御伽噺と思い許容できる。『二都物語』は19世紀の小説で、ディケンズは今なら許されないご都合主義の作品を多く書いている。それが本作は20世紀、戦後の作である。家族が見ても全く気が付かないほど似ている2人の人物。この基本的な設定自体、抵抗を感じても不思議でない。
語り手のイギリス人はフランス旅行中、自分と見分けのつかないフランス人に会う。その男は語り手の車を盗み、どこかに行ってしまう。残された自分はそのフランス人、貴族だったのだが、の田舎の故郷に戻り、屋敷でなりすまして生活を始める。家族は誰も気が付かない。幼い娘も、老母も兄弟も妻も義妹、使用人みんな気が付かない。ただ愛犬だけが違いが分かった。こんなこと可能か、あまりに非現実ではないかと思ってしまう。
なぜ語り手はフランスの貴族になったのか。それまでの自分に嫌気がさしていたとある。元のフランス人は変わり者で嫌われ者だった。家族は変わったと気づくが、元がおかしな男だったので何とかなる。更に小説ならではというか、危ない場面もうまく切り抜ける。逃げた男が家族にとって不快な人物だったが、語り手はこの家庭にそれまでより、好意的に接するのである。
小説はどう終わるかの興味で読み進めた。フランス人は帰ってくる。また語り手はイギリス人に戻る。幸せな終わり方かどうか、細かくは書いていない。ともかく不思議な小説である。
大久保康雄訳、三笠書房、1974
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