2025年3月2日日曜日

島田荘司『占星術殺人事件』改訂完全版 2013

1981年にデビュー作として発表された推理小説の改訂完全版とある。内容は戦前、2・26事件当時に起きた殺人事件を、小説の発表された頃、つまり1980年頃に名探偵が解くという話である。

最初に殺された画家の手記なるものがある。その画家がアトリエで密室殺人される。後に娘など身内の大量殺人、しかも猟奇殺人が起こる。その後、40年間警察などが捜査してきたが、謎のままだった。評価が高いので期待して読んだが、全く小説として面白くない。冗長で読んでいるうち飽き、最後の方は真相などどうでもいいから早く終わってくれと思った。

最初にある手記は昭和11年(1936)に書かれたとあるが納得のいかない記述がある。どう考えても間違いじゃないかと思ったところを以下に書く。p.24に「妙は 現在都下保谷に私が買い与えた家で」とある。東京都が出来たのは昭和18年で、それ以前は東京府。昭和11年に「都下」などという言葉はない。

更に日本帝国の北南東西、それぞれの端が書いてある。p.44に「 幌延もオンネコタンも日本領土と考える者は多いが、(中略)ハルムコタン以南を日本領域と考えるべきである。」とある。領土はどこからどこまで厳密に決まっており、個人の考えで決まるものではない。(戦後日本の領土問題は例外である)手元に昭和9年の「帝国地図」の復刻版があるが、東端は「北海道占守郡占守島東端」とある。占守島はしゅむしゅとうと読む。北端は「北海道占守郡阿頼度島北端」とある。阿頼度島はあらいどとうと読む。占守島、阿頼度島ともにカムチャッカ半島に近い千島列島の島である。いずれも当然、春牟古丹(ハルムコタン)島より北である。他に幾つも同様に北にある島がある。更に西端が与那国島とあるのは噴飯物である。当時の西端は台湾の西にある澎湖諸島である。先の帝国地図の西端を見ると「台湾高雄州澎湖郡花嶼西端」とある。明治当初の日本の領土を基本に考えた、と書いてあるならまだしも、日本帝国と書いてあるのである。まるで戦前の日本の領土を全く知らない、戦後の出来の悪い人間が書いたようなものである。もちろんこれは中心線を東経138度48分とするための推理小説ならではのご都合主義の極みである。

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