近代日本で教養がどう捉えられ、また現代の教養とは何かを論じる。目次は次の通り。
序章 なぜ「教養」を問題にするのか/第1章 「教養」の現況をめぐって/第2章 近代日本の「教養」/第3章 「教養」の内と外/第4章 「政治的教養」と日本の伝統/第5章 「教養」と教育、「教養」の教育/終章 「教養」のむこうがわ
現代のように教養というものが話題にならない、する気も起きない時代に、あえて教養を考察している点に敬意を表したい。著者は東大で日本政治思想史を教えている学者で、そのような「実用的」でない学問の研究者だからこそ現代の教養を考えざるを得ない立場にある。もちろん快刀乱麻を断つように整然と整理され解決策を提示しているわけでないが、対象が教養というものであればこうなるのが普通であろう。
なお本書の最後に過去に出た教養全集を2種挙げ、その収録内容がある。一つは平凡社の「世界教養全集」全34巻、別巻4巻で1960、1963年の発売、もう一つは角川書店の「日本教養全集」全18巻、1974、1975年である。前者の内容はいかにも教養書らしい本が並んでいるが、たとえば自然科学系など今では内容が古すぎて少し読むと投げ出してしまう。また最初に入っている『哲学物語』は戦前アメリカでベストセラーになった本とあり、読みやすいように見えるが、今となってはあまりに書き方や内容が古びていると感じる。
後者の角川書店の「日本教養全集」は、石油危機等を経験、もう日本が先進国になっていた、つまり教養などとあまり言われなくなった時代に出された。だからこの全集はかなり「斜に構えた」編集である。確かに第1巻、2巻などは『三太郎の日記』とか『人生論ノート』のような古典が収録されているものの、『ぐうたら生活入門』とか『家出のすすめ』などといった本が入っていて、この全集の少し前にベストセラーになった『誰のために愛するか』もあり、ともかく古臭い教養全集などでないと宣言しているようだった。読み手にも新鮮な感じを与えたものである。この全集も今では古本屋で投げ売りされており、今読んでみるとかつてのような新鮮さは感じず、昔のベストセラーを読んでいるような気になる(全部ではない)。新鮮さを感じさせた流行のファッションを、ずっと後から見ると時代しか感じさせないのに似ている。
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