1892年8月4日、マサチューセッツ州で起こった老夫婦事件、リジー・ボーデン事件の記録である。映画『モンスターズ 悪魔の復讐』を観て本事件を知り、邦書では最も詳しい本書(と言っても日本ではあまりこの事件を扱った本が出ていない)を読んだ。
リジー・ボーデンはこの事件の容疑者である。19世紀末、日清戦争より少し前に発生した本事件はアメリカ人なら誰でも知っている有名な事件だそうだ。事件のあったボーデン家は資産家で、ボーデン老夫婦殺害の容疑者となったのが、同家の娘リジー(30代)だった。なお母親はリジーにとって義母である。閑静な住宅街で白昼堂々と起こり、誰も目撃者はいない。斧で十回以上叩くという恐るべき殺害方法だった。
当時家にいたのはリジーと召使いだけである。リジーに容疑がかかったのは、他に該当者がいないという理由である。召使いのブリジットは窓ふき等で外にいてアリバイがある。それに反して、リジーでないという理由は本人の言だけである。
名家の夫婦が殺害され、その娘に容疑がかかるなど、当時全米を震撼させた事件で、国中からマスメディアが殺到したとか。でっち上げと分かっている記事も沢山書かれ、市民の関心に答えた。時代を感じさせるのは、きちんとした家の娘が殺人など犯すはずもないという当時の常識であり、今なら名誉棄損で訴えられる噓八百の新聞雑誌記事が横行したなどである。
犯罪の理由として、義母とリジーの仲が悪かった(リジーが嫌っていた)、実の父親では財産目当てが挙げられる。
リジーが被告として裁判が行なわれた。結果は無罪であった。状況証拠のみで、決定的な証拠はなかった。しかも当時の捜査方法は今と違って未発達で、現在なら分かることも分からなかった。リジーは無罪で姉と共に親の莫大な財産を相続した。同じ町の別の場所に住んだ。町の者たちはリジーと距離を置き、付き合いはほとんどなくなった。リジーは67歳まで生き、事件が起きてから30年以上経ってから亡くなった。
現在では犯人はリジーだろうという見解が大勢である。他に殺人を犯せる者がいないからである。ただ返り血を浴びたはずの服、及び凶器の斧はどうやって処分したかは未だに謎である。
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