ツルゲーネフ最後の長篇、ナロードニキを描く。
主人公ネジダーネフは請われて田舎の貴族の屋敷に家庭教師として赴く。ロシヤならではの議論ばかりする連中に交じって、その家に住むマリアンナを知る。言葉を交わすことはほとんどなかったが、お互いに惹かれ合うものを感じる。
ネジダーネフは理想主義で人民のために貢献したいと思っていたが、当時のロシヤ知識人で夢想はしても行動力はない。マリアンナも自分と同じ理想に燃えていると知る。また女として好きになる。マリアンナは意志の強い女である。
更に家の義兄に当たる男は革命運動の指令を待っていると分かる。義兄が行動を起こす。それにネジダーネフも加わろうとするが、ほとんど戯画に終わる。ネジダーネフは一人で勝手に思い悩む、ツルゲーネフの小説でおなじみの男の一人である。
小説は悲劇に終わるのでその点、心に残るかもしれない。まだ主人公に共感を覚えられる若い人を除けば、ナロードニキ運動が当時の知識人の勝手な自己満足に過ぎなかった、と思わせてしまう小説である。
前作『けむり』もそうだったが、本作も当時不評さくさくだったという。
ツルゲーネフの小説では当時のロシヤの社会への批判部分と恋愛部分が混ざり合っている。前者の比重の大きい小説は、ロシヤの社会や文学史に関心のある者でなければ今ではあまり評価の対象にならない。本書も『父と子』と並んで社会小説である。
解説は、文庫が最初出された戦前に書かれた文と、1970年代以降再版された時の文が載っている。戦前の文では当時の親ソ知識人の見方が分かる。
湯浅芳子訳、岩波文庫、1974年
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