主人公バザーロフはニヒリスト(ツルゲーネフの造語らしい)として有名だが、題を見てバザーロフとその父親との話と思ったら間違いである。バザーロフの両親は、バザーロフに遠慮しているだけの人の好い老人に過ぎない。旧世代と新世代の思想的な違いを扱った小説である。
小説は、バザーロフの友人、アルカージイがその父親と伯父の元へ帰ってくるところから始まる。バザーロフも同行してこのアルカージイ宅に厄介になる。
バザーロフは医師を目指す青年で、自らニヒリストと言い、凡てを否定する。建設は必要ないかと聞かれ、それは自分の仕事でない、と言ってすます。アルカージイの父親はお人好しだが、伯父はバザーロフの考えに承服できず、議論を交わす。バザーロフは相手になりたくない。
この家を出てから、バザーロフとアルカージイはある未亡人宅に行く。そこの未亡人は魅力的でバザーロフは惹かれる。後には愛の告白までする。恋愛感情は下らないという自分の信条と衝突するので感情を抑え、そこを出る。
自分の家に戻ってくる。両親の喜びようはひとかたない。しかし傲慢の塊であるバザーロフはあくまで自分の生き方のみ通す。退屈になったバザーロフは自宅を出て、アルカージイ宅に戻る。ある事情によりアルカージイの伯父から決闘を申し込まれる。決闘の結果は決して伯父、バザーロフ双方にとって悪いわけではなかった。
自宅に戻り、医者の仕事をしているうち自分が感染、命を落とす。
主人公のバザーロフは周りの者、あるいは芸術、人の感情等すべて下らないと馬鹿にしている。ニヒリストというよりバカニストと言った方がいい存在である。
世界文学史上、最も傲慢な主人公ではないか。それでは不快なだけ、つまらないだけの男か。いや自分では恰好つけているつもりなのである。そう理解すれば、いつの時代でも若い者はそうではないか。
本作品は発表当時、非常に話題になったそうである。ロシヤの文学史や当時のロシヤの社会を理解する上では有益な書かもしれない。しかし単に文学として小説として面白いかと言われれば、ツルゲーネフの他の小説の方がはるかに面白い。みんながそう言っているというので長い間、本作がツルゲーネフの代表作とされてきた。それがツルゲーネフはかつてほど読まれない、一つの理由ではないかと思ってしまうくらいである。
工藤精一郎訳、世界文学全集第37巻、集英社、1978年
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