2020年6月17日水曜日

ジョルジュ・サンド『ジャンヌ』 Jeanne 1844

ジャンヌは田舎に住む純朴な娘である。あまりに純粋過ぎるジャンヌを巡り、その美貌に惹かれる男たち、また利用しようとする周りの者たちが引き起こす悲劇である。

田舎で母親、叔母と住むジャンヌ。母親が乳母をしていたこの地方の貴族ギヨームが来る。ジャンヌの母が死ぬ。貧乏で金もない。ギヨームは援助する。その晩火事が起きジャンヌの家が焼ける。母親の遺骸を運び出しただけで後は崩れ落ちる。ジャンヌは満足している。俗物の塊のような叔母には金などくれてやる。
ギヨームはジャンヌとその友達を自分の館に招き、牛の世話などさせる。ギヨームには老いた母と妹がいる。ある日、ジャンヌと友人に奇麗な衣装を着せる。あまりのジャンヌの美しさに周りは驚く。ギヨームの友人であるイギリスのアーサー卿は、すっかりジャンヌを同じイギリスの令嬢と思い込む。現実を教えてやってもアーサーのジャンヌに対する思いは変わらない。

ギヨーム自身も内心ジャンヌを慕っていた。自分の娘の結婚の邪魔になると思った知り合いの副知事夫人は、ジャンヌにうそを言う。ジャンヌは家を黙って出る。後からギヨーム、アーサーは捜しに行く。品行のよろしからぬ弁護士に捕まっていたジャンヌは逃げだそうとする。ギヨーム、アーサーが来て扉を開けようとしても弁護士は開けない。そのすきにジャンヌは逃げだすが塔の上であり、そこから飛び降りる。ギヨーム等が見つけた際には、何ともないと返事をする。元の館に帰る。しかしそれが元でまもなく死ぬ。

主人公ジャンヌはまさしく理想的な女として描かれる。無欲で献身的、類まれな美貌の持ち主である。こう書くと非現実的にも思えるジャンヌに生命力を与えているものは何か。
それはジャンヌが全くの無知で迷信を信じ、母親と聖母マリアを敬い、ドルイド教とキリスト教の区別もつかぬ信仰心を持つ。一切の世俗的関心から無縁で結婚する気はない。およそ執着するものが皆無なのである。かつての黄金時代の化身である。

バルザックはサンドにこう言ったそうである。「あなたはあるべき姿の人間を求めておられる。この私は人間をあるがままにとらえている。」(訳書解説p.431)
これはサンド自身の認識でもあった。写実主義こそが小説の本道という考えに慣れすぎている現代人に、サンドの小説は再考を促す。
持田明子訳、藤原書店、2006

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