イギリスの小説家、マシュー・グレゴリー・ルイスが19歳の時書いたという(信じ難いが)、ゴシック小説の代表作。
話は大きく二つの流れがある。後半で流れは交錯する。舞台はスペインである。小説冒頭、教会で貴族のレイモンドとロレンゾは、美女アントニアとその叔母に会う。ロレンゾはアントニアに惹かれる。ロレンゾの妹アグネスはレイモンドの恋人である。しかし今は修道院に幽閉されている。もう一つの流れが修道院長のアンブロシオである。厳格有徳で非常に尊敬されている有名な僧である。そのアンブロシオに恋するマチルダは、男装して修道士となり修道院に入り、アンブロシオに熱情を打ち明ける。アンブロシオは自分の評判を気にするが、マチルダと道ならぬ恋に陥る。すぐにアンブロシオはマチルダに飽き、たまたま見染めたアントニアを何としても物にしたく、欲情の虜になる。マチルダはアンブロシオのためならと協力する。マチルダは妖術使いだったのである。アントニアをアンブロシオが獲得するため、手管を弄する。アンブロシオの修道院の隣にある女修道院は、アグネスが匿われていたが女修道院長がこれまた非道の人間だった。アグネスは死んだとレイモンドは聞かされ絶望するが、後に真相が分かる。アントニアを助けにロレンゾは向かうがhappy endとは言い難い。最後にディケンズの小説によくあるように誰それと誰それは身内だったと分かる。小説の内容は道徳的とは言えないが、全体をまとめれば勧善懲悪の物語とも言える。
18世紀に書かれたゴシック小説であり『オトラント城奇譚』『ヴァテック』『ユドルフォ城の謎』と並ぶ古典として有名。『フランケンシュタイン』は19世紀の作品。上巻の栞に本小説はホフマンの『悪魔の美酒』の粉本とあり、そう言えばそうだと思った。十代の時、『悪魔の美酒』を読み驚いたが、その元とも言うべき本書にこんな後年になって巡り会えた。(世界幻想文学大系第2巻、上下、国書刊行会、1985)
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