2024年6月23日日曜日

吉野源三郎『君たちはどう生きるか』岩波文庫 1982

戦後の岩波書店の雑誌『世界』の編集長として知られる吉野源三郎が昭和12年に出した本である。山本有三が関わった「日本少国民文庫」の編集主任となり、その一冊として刊行された。

内容はコペル君というあだ名の中学二年生がつづる日記が主で、叔父さんの文が時々入っている。叔父さんの文は大人の目から見た解説で、コペル君にすぐに見せるものでない。友人らとの学校生活の記録が主なところは形式的にはアミーチスの『クオレ』を思い出した。クオレの毎月の話に当たるものが叔父さんの文になろう。この『君たちはどう生きるか』は友人らのとの交友が多くのページを占めるが、後半に出てくる、上級生(五年生で旧制中学の最上級生)らとの対応に、コペル君は友たちとの約束を破った結果となり、後悔し苦しむところが山場だろう。コペル君の例そのままでないにしろ、やるべきことをせず悔やむ経験は誰にでもあると思われる。またこの本は戦前の山の手の生活の一例を書いており、もちろん当時の多数でないにしろ、戦前の雰囲気が分かってよい。

コペル君は人間同士の関係、交わりを分子のそれになぞらえて理解するなど聡明である。解説に丸山真男が書いているように、社会の実態を抽象的でなく説明できるのは高度な技である。今の中学生はコペル君に比べ、ませた口をきき知識も多いであろう。それは現代は多くの情報が氾濫し押し寄せてきているからである。この本の当時はマス・メディアといえば印刷物(雑誌なら月刊誌の時代)とラジオ、映画くらいである。今の知識の多くは雑学であり、コペル君のような本質的な思考はかえってしにくくなっているかもしれない。なおこの本はジブリの漫画映画の『君たちはどう生きるか』とは内容は別である。なぜ同じ題を使ったか、知らない。

0 件のコメント:

コメントを投稿