2024年6月16日日曜日

綾辻行人『十角館の殺人』講談社文庫 2007

著者の処女作で非常に評価が高い推理小説である。この小説を一言で要約すれば解説にある次の文で十分である。

『十角館の殺人』は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』(1939年)をなぞりながら、新しい切り口を見出そうとした作品である。(p.489)

自分が思ったのは、本小説を絶賛している人は以前に『そして誰もいなくなった』を読んでいるんだろうか。また本小説を読んだ後、クリスティを読むとなんだ、同じような小説ではないかと思うかもしれない。もう何十年も前、クリスティの『そして誰もいなくなった』を英語の原書(Ten little niggersという当初の題のペーパーバックだった)を読んだ際は本当に驚いたものだ。英語の練習でペーパーバックを読んでもなかなか進まない本が多い中、『そして誰もいなくなった』は内容の興味によってあっという間に読んでしまった。驚かせる推理小説と言えばこれ以上の作品は知らない。同じクリスティの『アクロイド殺害事件』にもやはり驚いた。昔若い時に読んだからだろう。だからこの『十角館の殺人』は正直そんなに感心しなかった。この小説ではトリックは考えてあるが、全体の枠組みがクリスティと同じで新鮮味がなく、面白くなかった。

ある一行に無暗に感心している者がいるが、自分のあだ名を言う行か。もしそうなら、あの一行があるため、その後の謎解き解説が間の抜けたものになっていると思った。もう少し工夫できなかったか。

何と言っても本小説で一番気になるのは、この連続殺人は復讐のために行なった、となっているのに全く復讐になっていないじゃないか。自分が復讐される理由を誰も聞かされず死ぬ。爆弾で一瞬に吹き飛ばすとか、睡眠薬を入れて火事で殺したのと同じじゃないか。まるで推理小説よろしく次々と殺人が行われるが(実際に推理小説だろと言われそうだが)、推理小説狂が推理小説を実地にやってみたくこんな連続殺人をした、とした方が説得力がある。現実の話として人が死ぬを見たくて殺人をした大学生がいただろう。


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