2021年4月21日水曜日

宇野重規『未来を始める』東京大学出版会 2018

 政治学者の宇野重規が女子中高生に対して行なった、政治学の講義である。通常の政治学の講義がどのようなものが標準か知らないが、(そもそも標準的な講義があるかどうかさえ)本書は若い世代に対して話しているので、分かりやすい言葉で語っている。このように平易な語りになると講義者の力量が分かる。当然ながら話す際に具体的な事例を多くしている。

その具体的な話で少々気になる点がある。例えば資本主義と社会主義の比較で、現在の資本主義諸国は社会主義的政策を多く取り入れている。それで社会主義はそんなに悪くないと社会主義を擁護しているのである。社会主義を今時擁護しているなど、何か北朝鮮のような国家の是認につながる可能性がある。そもそも社会主義国家でこれまで行なわれてきた弾圧、処刑をどう考えるか説明してもらいたかった。さらにトランプ大統領時代の講演なので、トランプ大統領について言及している。あまりトランプを評価していないようである。どう意見を持とうが自由だが、若い者相手の講義で一方的に自分の意見を主張するのはどうか。

3講でルソー、カント、ヘーゲルを取り上げ、それらの政治思想を分かりやすく語っている。ここの部分は専門だけに白眉だろう。ルソーやカントの私生活、人生も話している。そもそも思想家の人生とその思想の評価とどう関係があるのだろうか。生徒たちに後でどの思想家を評価するか聞いて、ヘーゲルが多くルソーは少ない。ルソーの人生を聞いて感心する人はあまりいないだろう。日本人はヘーゲルが好きだなどと言っているが、そんな一般的評価など生徒たちは知らない。自分の説明のせいである。

いろいろ意見を述べたが、今の政治学でどういうところを関心事項としているか分かり有益な本である。

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