2021年4月7日水曜日

徳丸吉彦『ものがたり日本音楽史』岩波ジュニア新書 2019

 

著者は昭和11年生まれ、民族音楽専攻の学者。現代、音楽を鑑賞すると言えばまず洋楽、あるいはクラシック音楽、更にポップスと言われるあたりではないか。また音楽を習うにしてもピアノ等、西洋音楽の楽器である。だから昔からある邦楽、日本音楽についてはほとんど知らない人が多いだろう。日本人である以上、過去の日本の音楽の遺産に関心を持つ。その関心を満たしてくれる日本音楽史が新書で出ているのは喜ばしい。

章立ては、古代、中世、近世、近代、現代と分かれる。古代は文字通りの古代から平安時代くらいまで、近世は武士の世の中になって戦国時代の終わりまで、近世は江戸時代、近代は明治以降、現代は戦後である。

読めばこれまでの日本の音楽の種類、形式、楽器についての知識が得られる。銅鐸は楽器であった、を初め、主な音楽として雅楽、平家(平曲)、能楽など、近世になって身近な三味線や筝(琴)が現れた、近代になってからの日本の音楽への姿勢などである。最後については西洋音楽が入って来て、国を挙げてその摂取に務めた。芸術のもう一つ美術では洋画と日本画が並行して教授と創作が進められたのに、音楽は洋楽一本やりで邦楽は学問の対象とならなかった。これには邦楽は花柳界などと関係があって敬遠されたという文を昔見たことがある。その辺の事情をもっと知りたかった。また学問の話でなく、一般庶民は長く伝統的な日本音楽に親しんできた。戦前は琵琶が非常に盛んであったという。今では見たことない人がほとんどだろう。また長唄、小唄といった歌は国民の一部だろうが、習う人がいた。このあたりの記述はなく、基本的に積極面を取り上げている。このまま行けば一部、芸術的なものは国家の保護の対象になり、博物館の陳列品扱いになるのか。最後に気になったのは、著者の政治主張が書いてある。過去の侵略戦争の反省を促すとか。どういう思想を持とうが勝手だが、本書は音楽史の本であり関係ない事項など書くべきでない。人文、社会科学関係の本では主題と関係ない著者の経験とか好みとか主張が書いてあるものが目につくが、辟易する。

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