2020年10月19日月曜日

バルザック『トゥールの司祭』 Le Curé de Tours 1832

 主人公の司祭補佐のビロトーは、トゥールの古い館に他の司祭と住む。元々友人だった司祭が亡くなり、希望していた部屋に後釜で入居した。実は同じ館に住むもう一人の司祭はその部屋を望んでいた。遺書の指示でビロトーが入ったことを快く思っていない。また館の女主人である老嬢もビロトーに恨みを持っていた。

ビロトーは人の好い人物と小説にあるが、全く気が利かない、他人の心が分からない世間知らず、端的に言えば馬鹿である。だから老嬢が自分を邪見に扱っていると分かった時、驚く。更に司祭が自分の部屋を乗っ取ろうとするので信じられない気になる。ビロトーの知り合いである貴族らに話す。みんなはビロトーに同情し、何かしてやりたく思う。しかし相手の司教はより高い地位に就任する。戦っても勝ち目はなく、手を引くしかなくなる。更にビロトーにとって大打撃だったのは、期待していた参事職にも就けないと分かった時である。居心地の良い部屋から追い出され、なって不思議でない職にも就けない。

相手の司祭や館の老嬢は確かに悪者である。だがそれより主人公ビロトーのあまりのナイーヴ(英語での意味)ぶりに驚く。いい歳して自分が何も悪いことしていないから、ひどい目にあうはずがないと決めつけている。納得できないほどである。『セザール・ビロトー』の主人公の兄という設定である。

富永明夫訳、集英社文学全集第22巻、1979

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