2025年10月21日火曜日

管賀江留郎『冤罪と人類』ハヤカワ文庫 2021

副題に「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか」とあり、冤罪についての本なのだが669ページもある大冊である。まず最初は静岡県で昭和25年に起きた有名な冤罪事件である二俣事件で、警察内での拷問を内部告発したため、干されたではすまない扱いを受け、その家族まで辛酸な目に会わされた山崎刑事の記述から始まる。次いで戦後に多くの冤罪を引き起こした有名な紅林麻雄刑事について書いてある。

そもそも紅林刑事が有名になった、真珠湾攻撃前後に静岡県で起きた連続殺人事件、いわゆる浜松事件に関して何か著書はないかと捜してこの本を知ったのだが、もちろん浜松事件についての記述もあるが、それに留まらない、膨大な論考がある。この事件に関わった警察庁の吉川澄一技師は日本で最初にプロファイリングを行なった先駆者であり、非常に優秀であったとある。更に浜松事件で有名になった紅林刑事の名声には当時の司法省と内務省の確執があったからと当時の官庁の事情が延々とある。

戦後になってから警察が、国家警察と自治体警察と二重になり、その実態について書いている。内務省の解体問題や、戦前から戦後の憲法改正に関わった政治家であり、冤罪事件の弁護士も務めた清瀬一郎について長々と書かれている。また法医学で権威であり、今では多くの冤罪を引き起こしたと記憶されている古畑種基教授、裁判官の実際などを述べ、460ページも経ってから再び山崎刑事や紅林刑事の記述に戻る。その後は冤罪がなぜ起こるかの論考である。ここで副題にある道徳感情(アダム・スミス)や精神病質について議論してある。ともかくあまりに議論の話題の幅が大きく、読み通すのは非常に疲れる。

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