前著『記憶の切絵図』に続く本である。前著は著者の自叙伝といった感じで、特に最初の100ページ(文庫)ほどは少年期を書いている。戦前の東京では、生活がどんなであったか書いてあり、戦前の東京の実際の一例として面白い。それに対して本書は著者の関心の赴くままの随筆である。
著者は学者というものは大抵そうなのだろうが、お山の大将、と言って悪ければ一国一城の主で、恐ろしく自信家である。そうでなければ学者などやっていけないのだろう。
本書では丸山眞男について書かれた章が特に有名(?)であるようなので、それについて自分なりの要約をする。政治学者の丸山は東大を辞めた後、1975年にプリンストンの高等研究所に来た。プリンストンにいた志村あてに丸山の世話を頼む依頼が数通来たとのこと。丸山は志村より15歳ほど年上で、戦後を代表する政治学者として既に有名だった。しかしながら志村と丸山は全く合わなかったようだ。丸山がいかに無知であるか、丸山の自分自身の無知に対して素直でない態度を盛んに揶揄している。中国の古典や成句に関しての無知を、これは丸山は江戸の思想を研究対象の一つとしていたから、それを知らないとはと呆れている。丸山の音楽好きは有名だが、その音楽についてもろくに知らないので、嘲るといった口吻である。志村は前著でも、権威とされている数学者を遠慮なく批判している。これは同業者だからその気になるとは推測できる。しかし政治学者と数学者などは関係ないから、攻撃する必要もない気がした。これは途中に書いてある事情で分かった。丸山が書簡で志村を話題にし、自信過剰で、知らないことを大言壮語していると書いてあるから。これを読んだ志村は怒り心頭に発し、本書でいかに丸山が無知のつまらない人間か、やっつけているのである。
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