ルゴン・マッカール叢書の第18巻である。パリの金融支配を目指すサッカールが主人公である。
そのためにユニヴァーサル銀行なる機関を作り、株価操作などで株価を吊り上げ、この株を買っていれば安全で必ず大儲けができると人々に信じ込ませる。単に金儲けを企むのでなく、中東、つまり聖地に鉄道を通し教皇を住まわせる計画をたて、その事業のための必要な資金集めが目的であった。またパリの金融界を牛耳っていたユダヤ人金融家を打ち負かす、との野望に燃えていた。
兄妹のうち兄は聖地の事業に打ち込み、妹は堅実な実際家で、サッカールの事業に不安を覚えていたがその愛人となり手助けする。サッカールの多くの知人がこの銀行に投資をする。儲けたい男爵夫人がサッカールに話し、色よい返事がもらえなかった。それで反対派のユダヤ人金融家に事情を話す。もとよりサッカールを潰したいと思っていたユダヤ人は相手の資金が底をついたと知り、一層の売りを浴びせかける。バブルで恐ろしく高額になっていた銀行の株価は落ち始め、暴落をする。これでサッカールは資産を失う。それ以上の不幸として投資していた人々は破産する。
小説の初めの方でサッカールがかつて女に産ませた子供がいて、それを基に金をせびろうとしていた男がいる。兄妹のうち妹がその子供(男)を引き取り、世話をしていた。しかし悪人であるその子供は、株で破産した貴族の娘に暴行を働く。金をせびるつもりの男には弟がいる。病身である。その弟がマルクスの共産主義のユートピアを語る。マルクスという名は出てこないが。この小説の書かれた19世紀末にはマルクス主義は結構普及していたと分かる。(野村正人訳、藤原書店、2003年)
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