著者は日銀出身の学者。日銀在席当時から論客として知られ、多くの金融関係の著書がある。本書は行動経済学を使い、近時の日銀の金融政策を批判する書である。具体的には黒田総裁下の日銀の政策批判である。それを行動経済学の手法を用いて行なう。と言っても行動経済学が最近の流行りであり、それを必要に応じて使っているという感じである。
行動経済学自体はある意味、常識的なことを言っているに過ぎない。そもそも主流の経済学は仮定によるモデルから出発する演繹的な体系である。それに対し行動経済学は帰納的である。経済学が政策の道具として使われており、経済の動向に多くの関心が集まっている。それなのに抽象的な仮定から出発する主流経済学は経済の実態を説明するのでなく、モデル分析でありいわば経済の本質を描こうとする。これに現実的な道具を求める向きは反発し、もっと現実に即した経済学を求め、それに応じたのが行動経済学というわけである。人間の行動の非合理的な側面を経済の理解に生かそうとする。本書では黒田総裁下の日銀の政策は人の心に訴えて期待(予想)を変えようとしたが、失敗した。
そもそもまずデフレを止めよとする目標が間違っていたと思う。もっともこれは当時の多くの人々に共有されていた考えであるから、日銀のせいばかりにしてもしょうがない。
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