2021年12月1日水曜日

『死ぬまでに観たい映画1001本』改訂新版 1001 movies you must see before you die 2015

以下は2015131日第2版発売、改訂新版についての評である。

本書は題名のように観るべきと編者が判断した1001本の映画の紹介である。編者はステーヴン・ジェイ・シュナイダーで、執筆は数十人の分担である。

体裁は古い映画から、つまりメリエスの『月世界旅行』(1902)から、本版ではS・マックイーンの『それでも世は明ける』(2013)までである。毎年改定され、収録映画が異なってくる。見開き2ページ使っている作品から、1ページのみ、1ページに2作品に分かれる。

こういった本では索引が不可欠である。この訳書では冒頭に題名の五十音順があり、日本未公開作品はその後にアルファベットで表記されている(なぜか北野武のHANA-BIが未公開作品の中に入っている。ローマ字のせいか)。巻末に英語及び原語でジャンル別の索引がある。原題が英語でない場合、英語と原語の2回出てくる。その後に監督名がアルファベット順にある。

この1001本の映画、ざっと数えてみたら600本くらい観ていた。題名を知っていても観ていない映画はもちろん、題名さえ知らない作品が多い。この本に掲載の映画を全部観たいと思ったら、時間の制約(これが一番の制約だろうが)以外にも、日本ではみられない作品が結構ある。冒頭の五十音別の後、日本未公開作品(40作ほど)の原題が並んでいる。日本未公開だからDVD等出ていないだろう。昔なら絶望的だが今ならAmazon等で外国から取り寄せられる。しかし日本語字幕が入っているだろうか。人口(購買層)の大きさから中国語字幕は入っていても、日本語字幕はどの程度期待できるだろうか。邦訳がある作品でもDVDが出ていない物が結構あるようで、これを観たいと思えば同様に外国から取り寄せるのか。

取り上げられている作品を古い順にみると、月世界旅行、大列車強盗、国民の創生、ヴァンピール、イントレランス、カリガリ博士、等々。あまりにも古典的、保守本流ばかりかと思っていると、後年には思いがけない作品が出てくる。バーヴァの『血ぬられた墓標』(1960)やウルマーの『黒猫』(1934)など。後者はポーの原作とは一切関係なく、ルゴシとカーロフが出ている。これらの映画は好きである。しかしベスト選に入れる映画かと思った。まえがきに質にこだわった映画ばかり選んでいない、とある。ここで選ばれている映画だけ観るわけでないし、とも思うが、選は好みの問題だからとやかく言ってもしょうがないのだろう。

さて巻末に監督一覧があると先に書いた。これを見ると、一番作品が選ばれている監督はヒッチコックで16作品、ベルイマン、H・ホークスが10、ブニュエル、キューブリック、スピルバーグが9、フォード、ゴダール、ヒューストン、ワイラーが8、キューカー、フェリーニ、スコセッシが7となっている。日本の監督では黒澤明が6作で我が国最高。他に6作選ばれている監督は、W・アレン、アルトマン、アントニオーニ、ミネリ、M・パウエル、O・ウェルズ、ワイルダーである。以上が本書の監督の順位になるのだろう。

黒澤の6作とは『羅生門』『生きる』『七人の侍』『蜘蛛巣城』『デルス・ウザーラ』『乱』である。この選に意(異)見があっても不思議でない。非常に高い評価の小津安二郎はどうか。『東京物語』『浮草』『秋刀魚の味』の3作である。英雑誌の投票で一番になったことのある『東京物語』は、地味で単純な出来事が描かれ、「漫然と見ていると平凡きわまりない映画に思えてしまう」(p.276)とあって、評価に苦労する映画らしい。確かに小津の映画は劇的展開など全くないし、虚心にみればつまらないと思う人がいても不思議でない。溝口健二も3作入っている。『残菊物語』(日本で唯一選ばれている戦前の映画)『雨月物語』『山椒大夫』である。小林正樹も成瀬巳喜男もない。

分野別にみていくと日本のアニメは海外でも人気があるような気がしていた(IMDBのランキングから。これは観客が選んでいる。若い層だろう。)アニメは18作あり、その中で日本映画は『AKIRA』『火垂るの墓』『千と千尋の神隠し』である。

ホラーは100ちょっとの映画がある。日本映画は『オーディション』『鬼婆』『リング』のようである。三池崇史の『オーディション』は欧米人が好む映画らしく、なぜかは興味がある。『オーディション』も悪くないが、日本人が選べば中川信夫の『東海道四谷怪談』や小林正樹の『怪談』の方を先に思いつくような気がする。そこではたと思いついたのは、小林正樹の『怪談』はともかく、『東海道四谷怪談』なんて外国で観られるだろうか、と思ってしまった。米Amazonで検索したら、The Ghost of Yotsuyaで出ているようだ。日本映画でも評価の高い作品なら英語版はあるのだろうが、日本でしか観られない映画も多い。この本で日本未公開の作品がそれなりにある、裏返してみれば日本以外では鑑賞不可能な邦画は当然のようにある。それらに傑作があるかどうかでなく、選ぶ前提の映画が異なっているのである。本書はアメリカ人のためのアメリカ人による名画選である。

写真が違う点、『七人の侍』のところに「ジョージ・ルーカスは黒澤明に強く影響を受け、『スター・ウォーズ』で『七人の侍』のSF版をつくりたがった」(p.293)とあるが、『隠し砦の三悪人』の間違いだとすぐ分かる。日本語版を出した会社は版元に間違いを指摘すべきである。「西洋人だから(間違っていても、知らなくても)しょうがない」などという日本人の気遣い、配慮、あるいは迎合は外国には通用しない。中国人や韓国人は間違いや不利には猛烈に抗議する。日本人はしないから馬鹿にされている、これがグローバル時代の標準である。

本書の日本映画の記述を読むと真面目に見ているのかと思いたくなるが、これがアメリカ人の一つの見方の例として理解する。

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