2025年2月25日火曜日

ホフマン『ネコのムル君の人生観』 Lebensansichten des Katers Murr 1819

書名となっている猫ムルの自伝の他、並行して音楽家クライスラー及びそれにまつわる人々の記録がある。ムルの自伝とクライスラーの話が交互に出てくる。これはムルが吸い取り紙に使っていたクライスラーの伝記が、誤って共に印刷されたという弁解が書いてある。正式な書名にはクライスラーの反故の伝記の断片というのも付されている。

ムルの飼い主が学者のアブラハム先生で、楽長クライスラーの知り合いでもある。ムルの自伝の部分はムルの意見表明、生い立ちなどが書いてある。人間の青年が猫になって、その意見を聞いているような文である。これに対しクライスラーの伝記部分は普通の話である。

クライスラーの伝記部分の荒いあらすじでは次の通り。クライスラーは音楽家で、ある領主の公の楽長を勤めている。著者のホフマンは作曲家でもあるので、本書は音楽の記述が多い。公にはやや精神に支障があるイグナチウス公子と娘のヘドヴィガー公女という子供がいる。ヘドヴィガー公女の親友で、姉妹のように仲の良いユーリアという娘(宮廷顧問官夫人の子)がいる。この二人は出番が多い。クライスラーが現れた時に公女は拒否反応を示すが、ユーリアは音楽の才能があるので、好意的になる。またヘクトール公子なる若い男が現れ、公女への求婚者なのだがクライスラーと衝突し、更にユーリアに気があるようである。クライスラーは後に公の元から修道院に入る。ムルは最後に死ぬ。本小説は作者ホフマンの死によって未完に終わった。(鈴木芳子訳、光文社古典新訳文庫、2024)

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