明治3年生まれの菊池幽芳が20世紀の初め、大阪毎日新聞に発表した翻案小説である。書名の初めに「宝庫探検」とあるように宝さがしの物語で、推理小説的要素を持つ冒険小説である。
翻案の元となった原作は不明である。ロンドンを倫敦を書き、イギリスが舞台であるから原作は英の作品であろう。その他の地名や人名は黒岩涙香ばりに日本名のような漢字表記であり、地名は富嶋町、軽琴村、木挽町など、人名は堀彦市、萩原辰蔵、梅田花子など。また婆娑妙と書いてバアソロミュー、六斤腿と書いてロッキンハムと読ませている。原書の音に漢字をあてはめたのであろう。
大まかな筋は次の様である。語り手の青年医師は友人の船長の船で航海している時、漂流する何百年も前の船を発見する。そこで船員らの骸骨の他、金貨が入った箱、記録書、更に精神がおかしくなった唖の老人を見つける。帰港後、老人は病院に入れ、記録書の解読を試みる。すると金銀財宝がいずこかに隠してあるらしい。そこで宝捜しが始まる。田舎にある化物屋敷と呼ばれている古い屋敷がありかではないか。その屋敷を借りようとすると、他にも借り手がいたと判明する。この宝捜しはライバルがいたのである。そのライバルは後に悪党と分かる。また謎の美人が現れる。どのような素性の者か。青年医師は惹かれる。後になって怪美人はライバルと関係があるらしく、医師は混乱する。
本筋に何も関係ないが怪美人に恋する語り手の間に、邪魔をしようと元の婚約者夏子が現れ、黒岩涙香『幽霊塔』の秀子とお浦を思い出してしまった。解説にも引用されているように江戸川乱歩の回想で知られているが、本作品の書籍化は戦後初だそうだ。小説の過半を占める会話は口語で現代の小説と同じであるが、地の文が文語でやや抵抗があるかもしれない。冒頭は次のように始まる。
余は極めて不思議なる物語を諸君に語るべし。そはたしかに諸君の好奇心を満足せしめ得るならんと信ず。
菊池幽芳は児童文学の分野ではマロの『家なき子』の本邦初訳で知られ、また本書以外では『乳姉妹』(明治文学全集第93巻「家庭小説集」筑摩書房)、『己が罪』(大衆文学大系第2巻、講談社)が有名。
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