2023年2月28日火曜日

ゴンブリッチ『美術の物語』  The story of art

1909年欧州に生まれた美術史家、ゴンブリッチによる美術史。初版は1950年に出て最終版は1995年でその翻訳である。主に西洋美術を扱っている。

優れた美術に対して、著者は感激の言葉を連ねる。これまで読んだ淡々とした記述の美術史と比べると、著者ははっきり自分の評価を表明している。また前の時代と比べ、この作品はこういった点で優れているという比較を良くする。まず美術一般論から始める。その後、地域別ではエジプトの美術の解説がある。ギリシャに移るとエジプトに比べ、ギリシャ美術はこんなに優れていると書いてある。エジプト美術はギリシャ美術を持ち上げるための書いたのかと思った。その後の時代にしても、ある美術は前の時代のどれそれに比べ、こういう点で優れているという記述が結構出てくる。人間は悪く言う方を良く覚えるものだから、比較で下に扱われた美術をたいしたことないと思ってしまうかもしれない。

本書は西洋美術に限っていない。その他では中国の美術も若干触れている。日本については中国の影響下にあったと簡単に書いてある。中国を高く評価し、日本は付け足しという扱いは少なくともかつての西洋人が東洋を論じる際には標準である。

以下は本書の感想ではない、触発された個人的意見である。中国の美術がそれほど優れているというなら具体的にはどのような作品があるか。この本を読むような人なら本書に出てくる美術をそれなりに知っているだろう。美術愛好家でなくとも、日本人なら『モナ・リザ』とか『ヴィーナスの誕生』をたとえ名は知らなくとも、大抵の人が絵自体は知っていると思う。それに対して中国美術は名作を挙げろと言われて、どの程度の人が何らかの答えを出せるか。中国美術は優れている筈なのに、なぜか。たまたま日本の美術教育、鑑賞の環境が遅れている、あるいはおかしいのか。西洋人が高く評価する中国美術は、欧米では日本より有名なのだろうか。(河出書房、2019年)

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