映画監督ジャン・ルノワール(1894~1979)による自伝と制作した映画についての思い出。専ら自伝として書いてあるのは幼少期。父親が印象派の画家オーギュスト・ルノワールである。どうしても特に若いうちには、父親の名に振り回される時が出てくるのは、偉大な親を持った者の共通であろう。19世紀末から20世紀初めの、フランスの様子の一例が描写されているところは興味深い。幼いうちはガブリエルという親戚の若い女に世話になった。ガブリエルはルノワールの絵のモデルにもなった。ルノワールの絵でガブリエルとジャンを描いた作品がある。
本のより大きな部分は自分の制作した映画についての記述である。1940年にナチスのフランス進攻を逃れて渡米する。特に代表作と言えば『大いなる幻影』と『ゲームの規則』であろう。共にフランス時代、すなわち戦前の作であるが、渡米後も『河』や『南部の人』など有名作を作っている。『河』制作でインドに2年間滞在した経験はルノワールの国家観に影響を及ぼした。フランス人になぜアメリカに住んでいる、フランスに帰って来いと言われると自分は映画国の人間だと答えた。2度の世界大戦はルノワールに国家というものを、時代遅れの遺物と感じさせたようだ。
西本晃二訳、みすず書房、2001年新装版
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