本書でドストエフスキーの後期4長編、『罪と罰』『白痴』『悪霊』『カラマーゾフの兄弟』を論じる。読んでいて思うのは、小説の意味するところを著者は果てしなく、自由に推察していくので驚くほどだ。正直、想像が過ぎるのではないかと思うほどである。しかし著者の考えるところ、ドストエフスキーの読みはこうでなくてはならないのである。あとがきに次の様にある。
「わたしの考えでは、ドストエフスキーこそは、まさに「二枚舌」の天才だった。(改行)わたしのドストエフスキー理解は一貫している。それは、書かれたテクストを絶対化しない、テクストには二重構造があるという信念である。信仰の裏に不信があり、不信の闇に神は存在する。作家というのは、そうした二重性の表現においてこそ、どこまでも真剣であり、誠実なのだ。」(本書p.261)
これを読んで、著者がやり過ぎと思われるほど、想像の翼を広げている理由が分かった。テクストなんかに拘泥していてはドストエフスキーは分からないのだ、これが著者の信念である。(東京外国語大学出版会)
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