代表的な怪奇小説を集めたものである。内容は以下の通り。
嘘好き、または懐疑者(ルーキアーノス)/石清虚、竜肉、小猟犬―『聊斎志異』より(蒲松齢)/ヴィール夫人の亡霊(ダニエル・デフォー)/ロカルノの女乞食(ハインリヒ・フォン・クライスト)/スペードの女王(A.S.プーシキン)/イールのヴィーナス(プロスペル・メリメ)/幽霊屋敷(エドワード・ブルワー=リットン)/アッシャア家の崩没(エドガー・アラン・ポオ)/ヴィイ(ニコライ・V.ゴーゴリ)/クラリモンド(テオフィール・ゴーチエ)/背の高い女(ペドロ・アントニオ・デ・アラルコン)/オルラ(モーパッサン)/猿の手(W・W・ジェイコブズ)/獣の印(J・R・キプリング)/蜘蛛(ハンス・ハインツ・エーヴェルス)/羽根まくら(オラシオ・キローガ)/闇の路地(ジャン・レイ)/占拠された屋敷(フリオ・コルタサル)
怪奇小説の古典の作品群である。このうち『スペードの女王』と『アッシャー家の崩壊』は一般の小説として読まれているし、この集のうちでも特に有名であろう。後者はここでは『アッシャア家の崩没』という訳名である。崩壊とか没落とか他の訳名もある。原語は単にfallである。『嘘好き、または懐疑者』は古代ローマの作品で、嘘の内容を平気で演説しているような話。『聊斎志異』も有名だろう。多くの話のうち三篇を収録。『ヴィール夫人の亡霊』は『雨月物語』の中の「菊花の約」のようなもの。この手の話は多い。『ロカルノの女乞食』は短い話で乞食を邪険に扱った貴族の災難。『スペードの女王』は短編なのに映画化されている。映画は元の話から逸脱していない。『イールのヴィーナス』は掘り起こされたヴィーナス像が災いをもたらす。『幽霊屋敷』は(うるさい)幽霊が出る部屋で体験するという、この手の幽霊物の古典。しかもその原因が究明される。普通怪奇小説というものは原因不明にして余情を残すとか、読者を煙に巻いたりするのだが、推理小説のような構成。なお本作は岡本綺堂の『世界怪談名作集』では「貸家」という名で入っているが、謎解きの部分がない。(ちくま文庫のp.223の最後の段から)『ヴィイ』と『クラリモンド』は大くくりで要約すると、天使とも悪魔とも言える女によってひどい目に会う、と言える。『ヴィイ』は神学校の青年が美女に会い、後に美女の死によって通夜(こんな言葉は出てこないが通夜と同じ)で体験する恐怖、『クラリモンド』の方は、聖職者になる儀式で見染めた美女クラリモンドに、夢かうつつかの恋で溺れていく。なお『ヴィイ』は『妖婆 死棺の呪い』という映画になっている。見る機会があったら見るといい。総天然色で見栄えがする。『背の高い女』はこれまた女による災難、『オルラ』は見えない怪物ものの古典。『猿の手』を読んだことのない人はいないだろう。大昔、創元推理文庫の「怪奇小説傑作集」で読んで、一度読んだら忘れられない作品だろう。『獣の印』はキップリングだからインドが舞台で、イギリス人が現地の人間にふざけた真似をして呪われる、といった植民地物(などという言い方があるかどうか知らないが)の作品。『蜘蛛』は江戸川乱歩の某作の元となった小説で、解説にネタバレ(その作の名)が書いてある。『羽根まくら』は夫人が病気で死ぬ。その原因は・・・という小説。『闇の路地』はある悲劇を別々の面から記述するという構成に凝った作。『占拠された屋敷』は大きい古い屋敷に兄妹だけで住んでいる。その屋敷の半分が何物かに占拠され、やがて・・・という不条理な小説。感じとして筒井康隆を思い出した。
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