2024年8月23日金曜日

吉本隆明『日本近代文学の名作』新潮文庫 平成20年

吉本隆明が毎日新聞の担当に話した近代文学の代表作をまとめたもの。24作品が選ばれている。作品の選択は吉本ではない、と「はじめに」に書いてある。「名作の個々の作品と作者は両氏(編集者)の選択されたもので」(p.8)とある。しかし続く文を読むと吉本本人の希望も入れてあるようで、その辺の区切りははっきりしない。

編成者後記で「これまで論じたことのない吉川英治や江戸川乱歩を対象とすることも、快く応じて下さった。」(p.213)とあるから、これらは吉本が論じたかった作家でないと分かる。芥川龍之介では『玄鶴山房』が取り上げられているが、芥川の代表作とは思われていない。ここの冒頭で吉本は芥川の中で一番いいと思っている、とあり吉本の意向が選に反映しているのだろう。他に保田與重郎、今時の読書家は名前さえ知らない人もいても不思議でない、があり吉本の選か。

ただ全体としてみれば取り上げられている作品は近代文学の代表作といえる。吉本の評も保守的、標準的と言っていいものが多い。初めに漱石の『こころ』があってその冒頭に「明治以降の近代文学の中で、夏目漱石と森鷗外は飛び抜けた、超一流の文学者という感じがする」とあって、あまりにも標準的見解で、かえって驚くくらいである。吉本が書いているのだから、何が書いてあってもそれだけで価値があるのだろう。

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