ウィルキー・コリンズによる長篇推理小説の古典。インドから不当に盗んできた月長石を巡る不可解な事件とその謎を解く。19世紀の長篇推理小説によく見られた、事件とその解決を第一部とし、その原因、背景を長々と描く第二部から成る、例えば『緋色の研究』とかガボリオの小説のような構成ではない。現代の小説にむしろ近い。書き方は複数の人数による一人称形式である。語り手が次々と交代していく。
初めはイギリスの田舎の屋敷が舞台でそこの執事が語る。件の月長石が叔父からその屋敷の令嬢の誕生日祝いに贈られる、しかもその晩に月長石は紛失してしまう。一体誰が盗んだか。捜査のため近隣の警察ではらちが明かず、ロンドンから名探偵が乗り込んでくる。しかし謎は解けぬままに終わる。ロンドンに舞台が移り、慈善事業に精を出す女の語りになる。月長石を盗まれた令嬢には従兄が二人いて共に求婚者である。二人の従兄と令嬢の関係が小説の筋を形作る。盗まれた様の真相は、医師の助手が行なう実験によって確かめられる。19世紀の小説だから何も言わないが、現代ならこういう手は推理小説では使えないだろう。更に話は進み、実際に奪った犯人が明らかになる。
推理的要素が中心だが、小説としての面白さで読ませる。(中村能三訳、創元推理文庫、1970年)
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