本格派の推理小説家として知られる著者の短篇集。次の8編を収録。
「小さな孔」「或る誤算」「錯誤」「憎い風」「わらべは見たり」「自負のアリバイ」「ライバル」「夜の演出」である。いずれも倒叙形式である。最後に種明かしがあるのでなく、犯人がどうして騙そうとしたかを述べる。完全犯罪を目指したが、あっけなく見破られる。中には推理小説を参考にして犯罪を練ったと書いてある物があるが、推理小説なんてつじつまさえ合っていればそれでよいという、現実的には非常識もいいところの犯罪が書いてあるのだから、失敗するのは当然と言えよう。正直、推理小説への揶揄で書いたのかと勘ぐってしまった。
「小さな孔」は小説家の夫を殺す女で、万年筆のインクが切れるのではないかというかなり凝った説明である。「或る誤算」は友人のせいで妻を失った男の復讐譚。アリバイのトリックなのだが、鳩時計に証拠が残っていたという話。「錯誤」はレコード会社の部長がライバルの歌手を蹴落とすために凝った殺人をする。しかし二冊の本のせいでばれる。「憎い風」は友人と買った宝籤が当たり、自分で独り占めするための殺人。停電で扇風機が止まっていて、アリバイつくりに失敗するという話。「わらべは見たり」は浮氣の相手と結婚するため妻を殺す亭主。浮気相手に妻と思わす偽の電話をかけさせ、アリバイを作ろうとする。その時電話で鳴っていた「野ばら」によってばれる。この作品は読んでいる途中、シューベルトとウェルナーの同名曲によるのではないかと思ったらその通りだった。音楽に関心があればたいてい思いつくだろう。「自負のアリバイ」は浮氣をしている褄を殺す亭主。3枚も同じレコードを買ってきてアリバイ作りをする。「ライバル」は正当防衛に見せかけ敵を殺す話で相手が隻眼と知らなかったのでばれる。「夜の演出」ではグータラで妻にたかっているだけの亭主を殺す妻はアリバイを作ったと思った。しかしながら金なし亭主は電気代未納でそのためにばれる。最後の2編はかなり短い。
本書で一番驚いたのは、解説の次の文である。
「・・・モーツァルトの歌曲「冬の旅」がひとつの・・・」(p.339)
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