2024年5月25日土曜日

『教科書名短篇 少年時代』中公文庫 2016

ヘッセ『少年の日の思い出』、魯迅『故郷』以外の収録作品は以下の通り。

永井龍男『胡桃割り』(1948)語り手が少年時代の、胡桃割りに関する思い出を語る。わがままに育てられた故の、子供の自分勝手な言動を読んでも少しも感情移入できなかった。親がこわい、親の顔をみて、何も言えずに育つ子供はいくらでもいると思う。井上靖『晩夏』(1952)田舎の浜辺、夏が過ぎ海水浴客がいなくなったが、療養に来ている少女の家族はまだいる。語り手はその少女に惹かれているが故に、仲間をけしかけて意地悪をしようとする。大学生が来て少女と一緒にいるので、その大学生に怒る。あまりにもパターン化された筋で読んでいて驚く。この展開はどれだけ映画などに使われて来ただろう。文字通り呆れた作品であった。

長谷川四郎『子どもたち』(不明)四つの挿話から成る。最初の話はジュウシマツを飼おうとした少年が父親に反対される。親を説得するが最後は不幸な結果になる。最後の行の少年の思いは、どう理解したらいいのか。次の話は納豆売りの少女を語り手が助けようとする。納豆など半世紀以上前は東日本の者しか食べなかった。西日本の人間は名前くらいしか知らなかった。著者は北海道の生まれだから書けたのだろう。三番目は子供が子犬を拾ってきて、母親は捨てに行く。大雨が降ってきて子犬を母親は捜しに行くが見つからない。子供は気にしていないようだ。最後は牛乳配達される牛乳が盗まれる話である。最初は新聞配達の少年を犯人と疑ったがそうでないと最後に分かる。安岡章太郎『サアカスの馬』(1955)語り手は不真面目な生徒にしか見えない。サーカスに行って貧弱な馬を発見する。最後に自分の思いが間違っていたと知る。吉行淳之介『童謡』(1961)は病気にかかった少年の体型がひどく変わる。最初は痩せ、次に多太りになる。

幻想的な話。竹西寛子『神馬』(1972)は島にいる有名な神馬を少女は知る。神馬ならではの仕草にみんな感心する。少女はある日、その仕草の秘密を知り悲しくなる。山川方夫『夏の葬列』(1962)は戦時中の出来事、田舎に疎開していた少年は、戦闘機の機銃掃射を経験する。やはり疎開していた少女の悲劇が起こる。戦後大人になってから訪れた田舎であの日と同じような葬列を見る。その際自分の思いが間違っていたと悟るが更に反転して事実を知る。三浦哲郎『盆土産』(1979)は父親が帰省する。土産に海老フライを買ってくるので、初めて見て食した子供らの驚き。柏原兵三『幼年時代』父親が息子たちに肝試しをさせる。お墓など怖くて兄弟誰も行きたくない。その顛末。阿部昭『あこがれ』(1965)は少年が近所に住む少女に憧れる。母親はその少女との付き合いを好ましく思わない。

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