2020年11月16日月曜日

バルザック『十三人組物語』 Histoire des Treize 1833~1835

中編小説『フェラギュス』『ランジェ公爵夫人』『金色の眼の娘』から成る。序文によれば13人の男達の冒険物語のはずであったが、3篇のみの物語である。

『フェラギュス』は、ある人妻に恋した青年貴族は、その妻の後をつける。ある家に入り、それを夫にも隠していたことから、情事ではないかと疑う。妻は夫婦の仲を維持していくのみが人生の目的であった。青年の詮索は迷惑極まりない。夫人の家の夜会に奇妙な老人が見られた。何者か。青年の夫人への執着は最終的にしっぺ返しを受ける。夫人の秘密とは不思議な老人は父であり、内緒で行っていたのは父の家である。夫にも言わず、妻を愛し信頼している夫は悩み傷つく。これだけひた隠しにしていた理由は、夫人の父親が元囚人であったからである。

『ランジェ公爵夫人』は男女の恋仲を描く。スペイン領である小島にある女修道院。フランスの士官がそこを訪ねる。かつての恋人が今は修道女となっているからだ。男が恋情を切々と訴えるが、女はもう来てくれるなと拒むだけである。小説の残りはそうなった過去のいきさつの説明である。パリの社交界の女王然としていたランジェ公爵夫人。アジアから戻った野人のような男がいて社交界の人気になる。その男が公爵夫人に恋し、猛烈に迫る。夫人は社交界の作法に従い男を受け流す。男は友人に聞き、女への攻略方法を替える。その後は関係が逆転する。最後通牒のような夫人からの連絡に答えがなかったので夫人は修道院に入る。大筋は以上のようであるが、男女の間の心の動きを微に入り細を穿って描写する。少し例がないくらいである。三篇中、最も長い作品である。

『金色の眼の娘』はパリの伊達男が、異国的な女を好きになる。その在り処を探る。金色の眼のスペイン語を話す娘である。男は画策して女の居所を突き止め自分のものにする。しかし女には他に男がいるのではないかと疑う。最後に娘が部屋で朱に染まって倒れている姿を発見する。誰が娘をそんな目に会わせたか。別の女であった。しかもそれが自分の姉と男は知る。男と思っていたのが真相は女だった、ここだけ取り出してみると『サラジーヌ』と同じである。

西川裕子訳、藤原書店、2002

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