中年の男と若い女の恋愛劇であるが、映画は何度も林の中の鹿の場面が挿入される。
牛肉のための牛処理施設、そこの部長は臨時雇いになった若い女に心惹かれる。女は人付き合いが苦手で孤立して働いている。部長は声をかける。女は避けているようにさえ見える。
施設で牛用の性欲増進剤が盗難にあう。警察の勧めで職員に対し精神科医の診察が実施される。若い女医は職員に刺激的な質問をする。部長はどんな夢を見たかを訊かれ、林の中に鹿がいる夢を見たと答える。同じ質問を若い女にする。すると女も同じ答えをする。女医は二人を呼ぶ。口合わせをしたのか。これで二人は同じ夢を見ていたのだと知る。映画中何回か挿入される鹿の場面は二人の夢を表していたとわかる。
その後二人は接近する。もともと惹かれ合っていたのである。男女は同じ夢を見ると知り、夜会いましょうなどと挨拶する。二人は同じ部屋に隣り合って、ただし同衾でなく、寝台とその脇に寝ることさえ試みる。
最後には愛を打ち明け合い寝るようになるのだが、そこまで時間がかかる話である。
男はおくてにしては、しょっちゅう女に声をかける。それなのに愛をはっきり伝えない。自分は腕に障碍があり、中年であることを気にしている。勿体つけて格好つけて、自分を好きになってもらいたいと期待している態度が明瞭である。あれほど喋るならもっと早く気持ちを伝えられる気がするが、映画なので時間をかけているのだろう。
映画は視覚芸術である。鮮明な場面、映像は記憶に残る。舞台が牛処理施設なので、牛の屠殺の場面がある。首を切り落とす。それで牛の首が切断面を上にして転がる。その切り口が真っ赤で牛の組織が蠢いている様子が映し出される。強烈である。欧州映画は日本ならまず映さない場面も普通に映す。この牛の首の断面は本映画で一番心に残る。
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