無声映画期のスターであるリリアン・ギッシュの自伝である。題名に映画、グリフィス氏とあるようにギッシュはグリフィスに見いだされ、映画史の残る古典に出演し、その名を残したのでグリフィスの伝記も結構な部分を占める。
ギッシュは1896年、オハイオに生まれた。父親は早く失踪し、ギッシュと妹のドロシーは母親によって育てられた。母親は娘二人のために生涯を捧げた。ギッシュは母親をこの上なく称賛している。父親がいなくてもこれほどいい母親に恵まれたのは幸せだったと思う。母親とギッシュ姉妹は生活のため舞台に出ていた。アメリカのあちこちに行く。母や妹と別れて別の芝居に出ることもある。当然ながら当たらない舞台もあり苦労があった。映画の黎明期、あまり映画は評価されていなかった。グリフィスも初めは作家になるつもりで、映画への関わりは最初から熱心だったわけでない。ギッシュ姉妹は友人のメアリー・ピックフォードが出ている映画を見て、会いに行く。随分お金になると聞き驚く。その時、グリフィスに会い、それから映画に出るようになった。舞台に出ていたので、あまり映画を評価する気はなかった。これは後年、テレビが出てきたとき、映画に比べテレビが低く見られていたのを思い出させる。この後のリリアンの活躍は知られているとおりである。
無声映画に関心がある者、映画の黎明期はどのような感じであったか知りたい者には資料になるし、ともかく本書は読んでいて面白いのである。本では一番重要な点だろう。俳優の自伝を幾つか読んでいるが、高峰秀子の自伝(わたしの渡世日記)以来の面白さを感じた。文庫本になっていないのが残念。(鈴木圭介訳、筑摩書房、1990年)