伊丹のこの本は有名で、かなり昔から知っていた。退屈日記などあるからヨーロッパに行っても退屈した、とでも書いてあるかと思っていた。読んでみると全然違う。「恥ずかしい日本人を嗤う」といったところか。
まずこの本の出版は1965年、昭和40年である。第一部は映画『北京の55日』(1963年公開、北清事変を扱った映画)に出演するためヨーロッパに行った時の経験である。この当時、普通の日本人は外国など行けなかった。金があっても外貨(ドル)準備が乏しく、ドルの入手が難しく海外渡航は制約されていた時代である。行ける者は極めて限られていた。「欧米」は「先進諸国」の枕詞だった。欧米といってもヨーロッパの方がアメリカより高く評価され、特にフランスは憧れの的だった。だからこの時期にヨーロッパに行った著者はまさに高みから見下すように日本人を批判している、というかたしなめている。
日本人の英語の悪口は今でも言われるが、当時ならなおさらである。だが納得のいかないところがある。p.22に「工事中はroad work(それにしても日本のunder constructionというのはどこから出たのかね)」などと言っているが、イギリス語と米語の違いに過ぎない。「昇降機はlift(それにしても日本のelevatorというのはどこから出たのかね)」と言っているようなものだ。そのくせヴェネツィアをヴェニスと言ってはばからないし、zipperもチャックと書いてある。人を嘲笑うなら自分も少し気をつけろと言いたくなる。ともかく伊丹十三という人にはがっかりした。
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