歴史学者林健太郎の自伝であるが、並行して自分がその中で成長した昭和の出来事を書いている。自伝に歴史を足している。ランケの自伝がそうなっているらしくそれを目指したという。大正初めの生まれだが、物心つくようになったのが昭和くらいからなので、昭和史となっている。こういう有名人の自伝では初めに自分の家がいかに由緒ある古い家系かを書き、幼年時代の腕白ぶりなどを書く例が多いが、本書はそうでない。
昭和初期は歴史にあるように次々と重大事件が起こった。それらを同時代の目で著述している。長じて学問ではマルクス主義を信奉するようになった。戦前の人文社会系の学者はマルクス主義にはまった者が多いと良く書いてあるが、林も同様だった。戦後になって、それまでソ連を見てきてマルクス主義からは離れるようになった。
また著者は東大の教員であったため、学者間の、学内の事情が良く書いてある。これらは部外者にとって興味ある記述になる。更に戦後の平和運動の主導者として清水幾太郎の名を挙げている。清水は60年安保の時まで進歩的文化人とは知っていたが、特に運動の面ではとりわけ大きい存在とはこれも知らされた。学園闘争の内部の実際も当事者だから詳細に書いている。一緒に担当した文学部の評議員として岩崎武雄、堀米庸三の名が挙がっている。国会議員にもなり審議時間が短いと書いてあるが、これも素直な意見であろう。国会は政争の場であり、立法の機能はそれもやる位のものだからである。
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