著者は長期刑務所に収容されている無期懲役囚である。二人殺めた。著者の入っている刑務所は重罪犯ばかり集めている。
この本ではまず自分の生い立ちを述べ、次に犯した殺人について書いてある。自己中で暴力的な父親に育てられ、反省したことなどない、絶対的な自信を持つ人間となった。自分の尺度、それのみが正常であり正義であり背く者は容赦なく殺した。二件の殺人ともそうだった。逡巡などすればそれこそ悪であり、義務を果たすように殺人をした。あまりに冷静に殺人をするので、犯罪の協力者が自分も殺されるのではないかと怯えたほどである。裁判になって被害者の肉親から、初めて自分以外のものの考え方、価値観があると知り仰天したと書いてある。この著者のような考えが普通だったら今の何十倍どころか何百倍も殺人が起きているだろう。
本の後半では刑務所で会った殺人犯の実際が書いてある。刑務所とは犯罪者にとって楽園であり(確かに健康的この上ない生活を送る、送らざるを得ない。食事はまずくとも健康食の極みである)、出たら今度は捕まらないよう、その知識を得る。被害者に対する罪悪感などなく、自分こそ被害者だと思っている。あんなところにいたから悪い、殺したせいで自分は刑務所に入れられていると殺した相手を恨むばかりである。改悛の情を見せるのは刑を軽くするためである。書いている中には人間として尊敬に値するという人物も出てくるが、例外中の例外であるからこそ心に残ったのだろう。
以前、やはり刑務所暮らしをした文を読んで、書いている人もそこに出てくる服役者も人間としてかなり異常だと思った。今回はまさに重罪犯罪者がいかに通常からかけ離れているかが分かる。理解の外にある。解説の最後に「人を殺すとはどういうことか、本書を読んでも闇のように不可解だ」と書いてあるが、当たり前だ。なぜ犯人から直接聞けば犯罪が納得できる、理由が分かると思っているのか。昔、連続殺人犯を描いた映画があって、その評も「この映画でも犯人の心の闇は分からない」と書いてあったが、そのように書けば恰好がつくと思っているのか。分からないのが当たり前である。ともかくこの本は司法関係者はもちろん、犯罪の更生が可能だと思っている人に読んでもらいたい。
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