『星の王子さま』は岩波書店が版権を持っていて、それが切れると各社から大量の新訳が刊行された。もとより岩波の翻訳は誤訳が指摘されていた。この翻訳では題名を直訳にしている。『星の王子さま』は浸透した訳名なので、無理して邦題は変えず、解説で原題はこういう意味だとか書く手もあったはずである。新しい今までにない題にして目を引こうとしたか、自己顕示が強いのか。 内容はよく知られている。それにしてもメッセージ性が強いというか、端的に言えば説教調の本である。
なぜこんな説教臭い本が称賛されるのか。目に見えるものが大切でない、その他大人の価値観を批判している。だからといってこの本の訳者を初め出版関係の人間、あるいは読んで感心する読者が金銭等に執着がないとか、この本の小さい王子に気にいれられる生き方をしているとは思えない。
この本に出てくる俗物どもを馬鹿にして、自分はもっと高尚な人間だと思えるからか。読者はこの本を読んで満足し、それで社会が安定するという機能を持っているかもしれない。本当にあくせくした生活しかしていないと、世の中に不満をぶつける可能性が高くなる。それを抑えている。(野崎歓訳、光文社古典新訳文庫、2006)
0 件のコメント:
コメントを投稿