ルゴン・マッカール叢書の第11巻である。パリの百貨店の隆盛を描く。主人公はドゥニーズという若い女で故郷にいられなくなったため、弟二人と上京する。頼って来たのは叔父の店。実際に来てみるとパッとしない。叔父一家もいきなりの上京にとまどったが、姉弟を迎えてくれる。向かいに百貨店がある。それが題名の百貨店。そのまばゆさに驚く。後にドゥニーズはこの百貨店に勤めるようになり、そこでの奮闘というか働きが小説の主な筋を作る。
女主人公が善人として描かれ、最後に至るまで大波乱はない。それが少し単調感をもたらすかもしれない。悪人だと、特に癖のある悪人が小説や映画に登場するとよく描けている、名演だと感心される(絶対にそうである)のだが、善人を書いて感銘を与えるのは物凄く難しい。
また何と言っても当時の百貨店の実際について詳しく書いてあり、勉強になる。その百貨店に押しつぶされていく中小小売店の悲哀がある。昔の大店法騒ぎを思い出す。大型スーパーなどの商業施設進出に対して従来の小型小売店が、売上を奪われるので来るなと訴えた。後には来てくれと懇願した。大型商業施設があれば客が来て自分たちの売上も増えるだろうと。消費者が買うかどうか決めるのである。それを大型商業施設を悪者にして、中小小売店は被害者だといって弱者の味方のつもりでいるのは呆れる。昔の日本人は着物を着て草履や下駄をはき、障子や襖で区切られた畳のある家に住んでいた。そんな生活は今はなくなった。着物や畳など作っていた人を同情する声があったのだろうか。
それにしても今では百貨店はかつての輝きはないように思える。文字通り百貨店が小売の花形で、消費を牽引していた時代に本書を読んだらまた違った感想をもっただろうか。(吉田典子訳、藤原書店、2004)
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