2021年6月9日水曜日

アンナとシャム王 Anna and the king of Siam 1946

ジョン・クロムウェル監督、米、128分、白黒映画。

ミュージカル『王様と私』で知られる、19世紀の後半、英婦人がシャム王室に英語教師等として働いた経験が元になっている映画。ユル・ブリナー、デボラ・カーによるミュージカル映画は1956年の制作でこれより10年後である。更にこのミュージカルの漫画映画化『王様と私』が1999年に作られた。実写映画では同じ1999年に『アンナと王様』(ジョディ・フォスター主演)がある。同じ原作を基にした映画化で、ミュージカルの再映画化ではない。

ミュージカルの『王様と私』は誰でも知っているだろう。本『アンナとシャム王』は、同じ体験を基にした映画としては初である。丁度ミュージカル『マイ・フェア・レデイ』(オードリー・ヘプバーン主演、1964)に対する『ピグマリオン』(1938)と同じ関係にある。

原作はシャム王室で働いた婦人アンナの回顧録を基にした、1940年代に書かれた小説である。当然ながらかなり事実と違う所がある。例えば主人公の英婦人はインド生まれで英国にはシャム赴任以前に行ったことはなく、また亡夫は事務員で将校などではない。王の死に際してはイギリスに行っており、立ち会っていない。また映画中、かつての妃が恋人と共に火刑されるが、こんなこともなかったらしい。アンナに当たる婦人の回顧録自体かなり創作があり、それを別人が小説にしたものが原作なのである。正しい史実を期待する方が無理だろう。

史実と異なる、というより今観てどうしても気になるのは、西洋人の価値観が絶対的に正しく、未開野蛮の東洋を思想善導するという当時の常識である。これは西洋人だけでなく、東洋人にも共有されていた。映画中、西洋人との会合のためシャム婦人たちが洋装する。鹿鳴館を思い出した。以前の常識が糾弾される例は珍しくない。映画の例を出すとインディアンを悪者にした西部劇である。もうその手の西部劇は作れない。しかし本作の映画、ミュージカルは何度も作られている。同じ米国内のインディアンでなく、アジアの遠い国の英婦人の話だからだろうか。これから映画化があるだろうか。タイではこのアンナと王様系の映画は凡て上映禁止になっているそうである。実際に観てタイ人がどう思うか聞いてみたい。

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