トウェイン晩年の作で、老人と青年の会話から成る。会話というより問答形式、プラトンの対話篇のような作品である。
内容は、人間は機械と変わらない、他からの影響で動いているに過ぎない。また凡て自分の利益のために行動する、という老人の主張に対して、青年が反発、会話が続いていくというものである。
老人の主張は別に驚くにあたらない。至極当然に見える。人間は機械と違う、理性とか崇高な義務を持つとかの青年の主張は、かつての人間は主体的に行動する理性的な存在であるという人間観の反映に過ぎない。フロイト後の現在ではそんな素朴な人間観の方が稀少であろう。
また人間が利己的な存在であるという考えに反対するのは、利己的と利他的を相反排他的に捉えているからである。情けは人の為ならずという言葉のある日本人なら老人の主張は分かりやすい。
マーク・トウェインが晩年になって厭世的になったからだなどと持ち出す必要はない。
中野好夫訳、岩波文庫、1973年
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