2024年1月28日日曜日

亀山郁夫『悪霊、神になりたかった男』みすず書房 2005年

ロシヤ文学者の亀山郁夫がドストエフスキーの『悪霊』の中の、特に「スタヴローギンの告白」の章を解説した書である。

聴衆に向かって語りかける口調で、途中で個人名を出して質問するところもあり、最後は聴衆に向かい質問を受け付けて終わる。もちろんこの形は著者の創作でそんな講演などしていない。こういった形にしたい著者の好みなのである。芝居じみたことが好きなのか。内容を読んでいくと、随分牽強付会に思われる解釈をしていると思ううちに、何か妄想を聞いているかのような気分になり、最後は著者が『悪霊』を元にした小説でも書いているのか、と思えてくる。著者の解釈は要するに少女がスタヴローギンの不道徳極まる行為の犠牲者ではなく、双方の共謀行為であると言いたいらしい(合っているか不明)。別にありうる解釈であろう。

ところが著者はこれを「ドストエフスキー自身がこの話を聴いたら、卒倒してしまうかもしれませんが、ね」(p.143~144)と言い、「かりにこれが誤読だとしても、私はこの誤読を大きな誇りとし、できるだけ多くのドストエフスキーファンに吹聴したいと思います。」(p.144)と言う。確かにどのように読もうが文学の理解に正解があるわけでないと、そこに書いてある意見はもっともである。それでも、こういう言いを読むと著者の意図は読む者を圧倒したい、アッと言わせたい、鬼面人を脅かせたいに尽きるようである。細かい点で間違いがあったり、不明な点があるのだが、そんな議論を起こす気など失せた。

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