劇場近くの喫茶店が舞台である。劇作家は今日、初演になる劇が心配である。妻は励まし、友人は彼の才能を衒学的な言葉をふんだんに使い、誉めそやす。成功すれば自分の実入りもあるからである。もっとも作家の妹は現実的で期待していない。
他の、人の好い芝居好きはあまり本当の意見は言わずに作家に好意的な発言をする。その中、中年の頑固おやじといった融通のきかない男は、演劇自体や昨今の状況をこき下ろす。
さて上演された。評判は散々である。あの減学者は逃げだす。作者も自分の才能のなさを思い知らされる。上演前は劇を攻撃していた中年は作家が家庭の経済状況のために書いていたと分かり、仕事を世話する。感激した作家は二度と劇作なんかしない、うちにある本は全部処分すると答える。
いつの時代にも文学に熱中する者がいる。当時の、劇作へ入れ込む者の多い様子がわかる。
佐竹謙一訳、岩波文庫、2018年
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