女主人公ドニャ・ファナの恋人は、カネのある別の女性と婚約しようとしている。恋人を取り戻すため、ドニャ・ファナは男装してその女性に近づく。それが緑色のズボンをはいたドン・ヒルである。ドン・ヒルという名はドニャ・ファナの恋人がこの町に来る時使った名である。
ドン・ヒルことドニャ・ファナを見たその女性は彼女に恋してしまう。名を聞くとドン・ヒルと答えられる。元々の恋人よりドニャ・ファナと結婚したく思ってしまう。父親はドニャ・ファナの好きな男を勧めるが見向きもしない。しかしその男がドン・ヒルと聞いて喜ぶ。それが実際会ってみると自分の知っているドン・ヒルとは全く違う男である。
一方でドニャ・ファナは名を変え、今度は女として恋人が好きな女の隣に住み、親交を温める。女をドン・ヒルと称する男に奪われそうな元々の恋人は自分もドン・ヒルと名乗る。更にドニャ・ファナ扮するドン・ヒルに恋した別の女も、自分をドン・ヒルと名乗る。このようにドン・ヒルだらけになるが、最後にドニャ・ファナは真相を明かす。元の恋人を取り返し、また別の組もうまく収まる。
男装した女に別の女が恋するといえばシェイクスピアの『十二夜』を思い出すが、当時のスペインも男装女性の話は多かったそうだ。
なおスペインでは貴族の敬称として男にはドン、女にはドニャをつけるが、題名のヒルとは田舎臭い名だそうだ。女ではテレサがそう聞こえるとか。
佐竹謙一訳、岩波文庫、2014年
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