2026年9月27日日曜日

井上靖『黯い潮』 昭和25年

中年(当時の感覚)の新聞記者が主人公で、発表前年に起きた下山国鉄総裁怪死事件を背景とする。下山怪死事件を扱った書籍は多く出ているが、基本的にその謎を解くという意図で著者の考えが書かれており、小説の形で出ている物が他にあるか知らない。更に本書は、事件後1年しか経っていない時点での発表であり、過去の歴史となっていない当時に書かれた。

これは下山怪死事件だけを扱っているのではない。主人公の恩師の娘との縁談があり、以前の妻の、芸能人との心中が書かれている。周知のように著者は当時、毎日新聞に勤めていた。毎日新聞が他の新聞と違い、自殺説を支持していたのも知られているだろう。この小説で、当時から一般の国民の大部分が他殺に違いないと信じ、そういう情勢だったと読めば分かる。下山怪死事件の途中経過までしか書いていないが、新聞記者としての、また個人としての苦悩が描かれている。

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