2024年4月20日土曜日

デュ・モーリア『愛はすべての上に』 The loving spirit 1931

ダフネ・デュ・モーリアの処女作である。作者24歳時の出版である。題名のThe loving spiritは題辞に掲げられたエミリ・ブロンテの詩(ブロンテの詩は全体だけでなく、各章の初めにもある)から来たのであろう。「愛する心 代々伝わりて/永遠(とわ)に絶ゆることなし」一家に代々伝わる生きる情熱が主題の小説とも言える。原題でも訳名でも内容は分からない。内容に沿った訳名としては『クーム家の人々』が考えられる。トーマス・マンの処女作『ブッデンブローク家の人々』を思い出したからだ。また親子代々の物語ではバックの『大地』も思い出した。『ブッデンブローク家の人々』を20歳代前半で良く書けたものだとの感心を読んだことがあるが、本書についても同様に言えるだろう。

コーンウォールの田舎の港町に住むクーム家。小説の初めは19世紀の前半で、ジャネット・クームという女、男まさりで男に生まれたかったという女の物語である。青年と結婚する。子供を何人も授かるが、その中でジョゼフという男児を特別可愛がり、ジョゼフと母親の間には緊密な愛情が生まれる。第二部はこのジョゼフの物語である。逞しく成長したジョゼフは船乗りになる。男性的であるが粗暴で専制君主である。結婚して生まれた長男が次の主人公になる。ジョゼフは最初の妻を亡くしてから、老年に近い歳になって激しい恋愛をする。これは不幸をもたらした。更にジョゼフの末弟フィリップは計算ずくの不快な男であり、小説の最後まで登場する。ジョゼフの長男クリスは父と全く似てない文弱であり、船乗りなど成りたくない。父親をいたく失望させる。何とか決意して船に乗ったが、船酔いその他船に怖れしか感じず、途中のロンドンで船を下り行方をくらます。ロンドンで下宿に住み、そこの娘と結婚する。不況で財産を亡くし、妻と田舎の港町に帰る。クリスは兄弟や親戚が経済的に困っており、叔父のフィリップに援助を頼むがにべもなく断られる。クリスは「英雄的」行為で命を落とす。クリスの妻は田舎を嫌い、ロンドンに子供を連れて帰る。クリスの娘ジェニファーが最後の主人公である。成長したジェニファーはロンドンを嫌い、父の田舎に帰る。そこで従兄に会い親しくなる。また吝嗇漢の叔父フィリップに仕返しを企てる。

小説の最後、p.335に家系図が載っており、必要に応じて参照したらいいだろう。(大久保康雄訳、三笠書房、1974年)

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